薫子さんと主任の恋愛事情
颯、大丈夫かしら。八木沢主任の胸ポケットの中なんて、きっと窮屈な思いをしているに違いない。
今晩付き合ったら返してくれる? 夕方六時に第二駐車場で待ってろ?
何勝手なこと、ほざいてやがる。
誰が今晩付き合うって言った? なんで駐車場の出入口で待ってなきゃいけないの?
颯を返して欲しかったから条件を飲もうと思ったけれど、そんな一方的な条件は受け入れられないに決まってる。
「颯は私のものよ。絶対に取り返してやるんだから」
事務所のドアが見えてくると、八木沢主任と戦う威力がいっそう高まる。
でも、どうやって?
腕時計を見れば、もうすぐ十三時。午後の仕事の始まる時間。
月末月初の時期も過ぎ仕事自体は落ち着いていると言っても、毎日受注生産している製麺会社の仕事に終わりはない。
大きな会社ではないけれど、工場で働く人数は多い。それに比べて事務所で働く人間の数はさほど多くないから、任される仕事がやたら多い。残業は当たり前だし、休日出勤することもある。けれどその分お給料もたんまりと頂いているから、文句の一つも言っていないけれど。
「颯にお金がかかるしね」
二次元の男子が彼氏の私としては、今必要なのは時間よりお金。色気も素っ気もないけれど、それで満足している。
だから何が何でも、早く颯を我が手に戻したいところなんだけど。