薫子さんと主任の恋愛事情

な、なに?

驚いて振り返るとそこには、寝息を立てて寝ている八木沢主任がいた。

人間って驚きすぎると声が出なくなるとか言うけど本当みたい。ここから逃げ出さなきゃと思うのにこんな格好ではどこにもいけなくて、毛布に包まりながらただ黙って八木沢主任を見つめていた。

「なにひとりで、ジタバタしてるの?」

寝ているはずの、八木沢主任の形の良い唇が動く。

もしかして寝言?と顔を覗き込もうと身体を動かせば、急に伸ばされた八木沢主任の腕に捕らえられそのまま胸元へと引き寄せられた。体勢を崩した私の身体は、そのまま八木沢主任の胸に飛び込む。

「うわっ!」

大きな声が出てしまう。慌てて離れようとしたら、私の背中に回った八木沢主任の手に力が入る。

こんなこと困るのに……。でも八木沢主任の身体からは爽やかなシトラス系の香りが漂ってきて、私の思考能力を鈍らせていく。

とは言えこんなことは初めてで、身体は固まったまま。

なんで、こんなことに? それになんで、八木沢主任は裸なの!?

太腿の辺りに布地を感じるから下着は履いてるみたいだけど、目の前は素肌の胸元で。生まれて初めてのリアルな男性のぬくもりに、頭の中は大混乱。

「薫子は俺の恋人だろ?」

「恋人……なんですか?」

「付き合ってるんだから恋人。だからこうして抱き合っていても、なんの問題もない」

そう言って抱きしめる腕に力を込めると、余計に身体の密着度が増してまたしても緊張で身体が硬くなっていく。



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