薫子さんと主任の恋愛事情
付き合っていると言ったって、まだ昨日スタートラインに立ったばかり。お互い好き同士で始まった恋ならともかく、私の気持ちはまだ八木沢主任に真っ直ぐ向いていない。今のところ10対8で、颯の方が優っている。
……ってそんなことより。
「なんで私は八木沢主任の家にいるんですか? しかもなんで下着姿なんでしょう?」
そうだ。今のこの抱きしめられている状況より、そのことのほうが大問題。八木沢主任ともあろう人がまだ本当の恋も知らない、酔っぱらって記憶のない女を家に連れ込んで、まさか無理やり抱くなんて思ってはないけれど。ここはきちんと確認しておかないと、後々困ることになるかもしれない。
「覚えてないんだな」
「覚えてたら聞きませんよ。ちゃんと本当のことを教えて下さい」
八木沢主任が少し呆れたように言うから、口調がぶっきらぼうになってしまう。
「薫子おまえって、酔うと陽気になるんだな。もうハイテンションでさ『今日は家に帰りません』って大騒ぎ。まあ住んでるところも知らないし、ここに連れて帰ったら……」
「連れて帰ったら?」
八木沢主任がそんなところで口ごもるから、嫌な予感がして手に汗がにじむ。
「いきなり暑いとか言い出して勝手に脱ぎだすから、こっちのほうが面食らったぞ。俺がその姿まででなんとか抑えたけど、薫子もう少しで全部脱ぎ……うぐっ」
「わ、わかりました! もう、それ以上は言わないで下さい!!」
身体の間に挟まっていた両手を抜き出すと、目一杯伸ばして八木沢主任の口を押さえた。