これが私の王子様

 父親の言葉に真っ先に思い付いたのは、雅之の顔。

 そして次に視線を向けたのは、和人の顔。

 ゆかは頷きながら「知っている」と答えると、和人の名前を挙げ、同じ学校の生徒と話す。

『そ、そうか』

「お父さん、どうしたの? さっきから、声が震えているし。なんだか、様子がおかしいよ」

『会長が、息子の嫁にほしいと……』

「誰を?」

『ゆか、お前だ』

 その言葉に、ゆかの身体が硬直してしまう。

 硬直している間、耳元で父親が何か喋り続けているが、一切耳に入って来ない。

 頭の中が真っ白になってしまい、半分意識が飛んでしまう。

『という訳だ、後は帰ってから話す』

 そう言い、電話が切られてしまう。

 耳元に響く通話が切れた音に、ゆかは意識を取り戻す。

 だが、今の言葉が衝撃的だったのだろう、ゆかは呆然と立ち尽くす。

 そんなゆかの肩に手を載せると、詩織は身体を左右に振った。
< 195 / 211 >

この作品をシェア

pagetop