LB4
俺は公立高校で数学教師をしている。
早いもので、もう7年目だ。
担任のクラスも持っている。
今のところ、生徒からの評判も良好で保護者からのクレームもほとんどない、そこそこ優秀な教師という立ち位置をキープしている。
「数学の担当は藤川だ」と言えば羨ましがられる程度には、「いい先生」として認識されていると思う。
夢を叶え、忙しいけれど充実した教師生活は、順風満帆に営まれていた。
……はずだった。
自分がおかしいと思い始めたのは、昨年の秋頃。
一人の女生徒がやけに目につくようになったのが始まりだ。
廊下を歩いていれば見えない力に視線を引き付けられ、クラス名簿を眺めると真っ先に名前が飛び込んでくる。
何かにつけてからかいたくなってしまうし、小用があれば彼女に押し付け、文句を言いながらも素直に従う様子に満足を得る。
それはどこか、懐かしい感覚だった。
その女生徒の名は、江頭えみ。
昨年度から持ち上がりで、俺が担任を務めている。
揺れるスカートの太股や紺色のハイソックスに包まれたふくらはぎが、なんとなくいいなぁと思う程度だったのが初期症状。
眠る前、脳内で彼女の制服を剥いだ頃には、もう認めざるをえなかった。
俺はあろうことか、自分の生徒に恋心を抱いてしまったのだ。
そして今年の夏のはじめ、その邪な気持ちが原因で、10年以上付き合った二人目の恋人と別れた。
騒がしい夏の訪れとは裏腹に、とても静かで重い別れだった。