T&Y in神戸
由香利を見つけ、歩みが止まる。
由香利は青味がかかったグレーのキャスケットを被り、膝の上のモバイルを夢中になって操作していた。
俯く由香利の頬に沿う長い髪から覗く口元が時折緩む。
屋敷で本を読むときと変わらず、回りを全く気にしていないーーー無防備にも程がある。
「ったく、」
気付かない由香利に向かって足を踏み出せば、突き刺さるような視線。
辺りを伺えば、物陰にちらほらと見知った顔があった。
思わず笑ってしまう。
あのジジイと安西が、週末の人混みの中に由香利を一人出す筈がない。
分かりきったことに全く頭が回らず、あんなに焦っていた自分の余裕の無さに只、笑うしかない。