きみのふいうち




「佐藤!」

由愛とのお昼を終えて自分のデスクに戻り、午後の仕事に取り掛かってすぐ。

名前を呼ばれたわたしは、キーボードを叩いていた手を止めた。

一緒に呼ばれた向かいの席の暁くんも同じように顔を上げている。


声の主は、課長だった。

偶然にもうちの部署にはわたしと暁くんの他にも苗字が佐藤の社員が数人いるから、わたしも暁くんも、基本下の名前で呼ばれている。

苗字で呼ぶのは、課長級以上の上司だけ。

他の佐藤さんたちも、課長の呼びかけに仕事の手を止めて顔を上げていた。


「えっと……、どの佐藤でしょうか」

立ちあがってそう聞いたのは暁くん。

その言葉に課長は「ああ、そうか」と苦笑を零した。


「佐藤暁と佐藤花南。ちょっと来てくれ」

呼ばれてわたしも席を立つと、暁くんと課長のデスクに向かう。


「ふたりに人事部から新人研修の講師依頼がきている。さっき内容はメールで送っておいたから確認しておけ」

課長の前に並んで立ったわたしと暁くんに、課長はさらりとそんなことを言った。

……え。

講師!?

と思わず声に出してしまいそうになる衝動をなんとか飲み込んで、分かりました、と頷く。

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