きみのふいうち

わたしも暁くんがすき。

昨日、そう言えていたら、今頃まるで正反対の気分だったんだろうなぁ、と思う。

だって、ずっと好きな人と両思いだなんて。
そんなの、自分に起こるわけない奇跡だと思っていた。

今日、どんな顔をして暁くんに会えばいいんだろう。
わたしの気持ちを伝えたいけれど、昨日あんなふうに逃げてしまったから、気まずい。

はぁ、ともう一度ため息をついて、辿り着いてしまったオフィスのドアを開けた。

勤務時間前のフロアには、まだまばらに人がいる程度だったけれど、そのなかに暁くんの姿を見つけて、息が止まりそうになる。

思わず立ち止まってしまったけれど、いつまでも入り口で立ち尽くしているわけにもいかないので、意を決して自分のデスクに向かった。

「おはようございます」

と、周りに挨拶をしながら席につくと、暁くんもわたしの方を見て挨拶を返してくれる。

昨日、ひどい態度をとったのに普通に接してくれることに、泣きたくなるくらい安堵した。

「花南さんおはよう。来たばかりのところ悪いんだけど、ちょっと急ぎでまとめてほしい資料があって、さっきメールしたから確認お願い」

「え、あ、うん」

向かいのデスクからいつもどおり仕事を指示されて、驚きながらもパソコンを立ち上げてメールを開いた。
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