愛なんてない
家へ








誰かが頭をゆっくり、ゆっくりと撫でてくれている。


その独特のリズムは心地よくて、それと同時に幸せに感じる。


まるで、愛おしむように優しくて柔らかな包み込まれる動き。


お母……さん?


ううん、違う。


このちょっとだけ指の腹がごつごつした感触は、お父さん?


おっきな手と微弱な力加減がお父さんに似てる。


お父さんはわたしが絵を描いてくれると、いつもこんなふうに褒めてくれたっけ?


ねえ、お父さん。お母さん。


「弥生」


まるでそれに応えるかのように、誰かに優しく愛おしげに呼ばれた気がした。



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