愛なんてない
学校
3月も半ばになり最上級生が卒業した校舎はすこし侘びしい。
「なんでこんな時まで授業があるかな、かったるい」
前の席の麻美(あさみ)が、わたしにぶーたれてきた。
でも、今は授業中だ。
「麻美、ちゃんと前を向いてなよ」
わたしはひそひそと小声で親友を促すけど、麻美は聴いちゃいないし。
「そういえば、弥生(やよい)は今日も行くの? あの河川敷の桜の下に」
唐突に切り出された話題に、わたしはドキッと胸が鳴った。
そう。
わたしはあの幼い約束を信じて、毎年春の花が咲く頃に毎日あの桜を見にいくようになってた。
毎晩、毎晩。自分でも馬鹿らしいとは思うけど、足を向けずにはいられなかった。
愚かだって解ってる。
あんな子どものただの口約束、彼だってきっと忘れてるんだって。
でも、わたしは信じたかった。
彼はいつか迎えに来てくれるんだって。
そんなわたしを理解してくれたのが小学校でクラスメートになった麻美だったんだ。