可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。


(1)キスフレンドな関係



乗り合わせたエレベーターの中に、あたしたち以外高校生はいなかった。


上から下までハイブランドで埋め尽くされた古臭い老舗のデパートになんか、放課後に制服姿の高校生がわざわざ来るわけがない。



思ったとおりのシチュエーション。



隣り合ったあたしと渚が目を合わせて笑う。
いたずらを仕掛ける前の合図。


扉が閉まりきったのをきっかけに、あたしたちは密室になったエレベーターの中でキスをはじめた。



まず挨拶代わりに軽く触れて。
それから何度かちゅ、ちゅ、と音を立てて。




狭い場所でキスを始めた高校生に、すぐに斜め前に立っていたサラリーマン風のおじさんが舌打ちして。その反対側では上品な恰好をしたオバサンたちが眉を顰める。

あたしたちの唇から漏れる音に振り返った年配の夫婦は、何も見なかったふりして顔を元に戻す。



エレベーターの中に、大人たちの苛立ちや戸惑いが充満していく。
それが愉快で渚もあたしもさらに音をたてて唇を吸い合う。



たくさんキスし合って、ようやくエレベーターが停止して扉が開くと、あたしたちはきまずそうにしている大人たちの隙間をぬって、何食わぬ顔して下りて行った。




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