可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。


◇ ◆ ◇


「おまえ今日は予備校じゃないんだっけ?」

マンションにたどり着き、オートロックを解除してエントランスホールに足を踏み入れると渚が聞いてきた。


「うん?」
「じゃあ今日くらいガリ勉しないでゆっくりしてろよ」


渚はそういって、エレベーターホールから一歩後方に下がる。


「じゃあな。またな」


そういって片手を挙げるから、あたしは驚いて思わず聞いていた。


「渚、今日は寄ってかないの?」


まだ4時前で帰宅するには早い時間だし、ここまでついて来たんだから、てっきり部屋にあがってくつもりなのかと思ってたのに。渚の顔を見上げていると、渚はすこしだけ憎らしげな目であたしを見つめ返してくる。


「………おまえな。やっぱ馬鹿だろ」
「は?」

「今日泣かされたばっかだっての、もう忘れてんのかよ」


言われた途端、そういえば渚にココ触られたんだっけ、って思い出して。渚の手が触れた場所を意識した途端、なんか言い様もないくらい恥ずかしくなってきた。


「……忘れるわけないし。それが何だって言うの?」
「おまえホント、勉強以外じゃお粗末な脳みそしてるよな。警戒心なさすぎ。もっかい俺に泣かされたいわけ?」

「……それって。部屋にあがったら、渚はまたあたしを泣かせるようなこと、するつもりがあるって意味?」


わりと真面目な質問のつもりだったのに、渚は絶句して悶絶したように顔を歪める。

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