可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「………渚、馬鹿じゃん」
「馬鹿はそっち。おまえ俺のことナメすぎなんだよ。……好きって言ってんだろ」


渚が言った二度目の「好き」は、まるであたしに言い聞かすような言い方だった。言われた瞬間、鼓動が強すぎて胸が弾けてしまいそうになる。

嵐のように突然あたしの心を無茶苦茶にする、嬉しいのか苦しいのかよくわからない、強烈すぎる気持ち。それを押さえ込んでポーカーフェイスを気取るために、あたしの口はまた最低な憎まれ口を叩いた。


「………こんなとこで何言ってんの。馬鹿みたい。勝手に盛り上がってるだけじゃん?」


我ながら、100年の恋だって醒めきるほどの可愛げのなさだ。
なのに渚は怒りも責めもせずにただあたしの顔を見て唇を歪ませるように苦笑する。



あたしなんて全然ダメなヤツだって見透かしてるくせに。そんなあたしを丸ごと受け止めようとするかのような笑み。



いつも悪友みたいな顔して笑い合ってたのに。今の渚はあたしの知らない大人みたいな笑い方をしてる。

渚にこんな切ないような慈しむような表情をさせてるのはあたしなのかと思った瞬間、また胸が強く痛んだ。その痛みと一緒に甘い痺れが全身に広がっていって、クラクラと陶酔してしまいそうになる。あたしは渚が怖くなる。


『ぼっち』のままでいるって決めてたはずなのに。


渚の本気に動かされてしまいそうな、そんな弱い自分が怖い。怖いのにどうしようもなく心地よくて、わけがわからなくなるのも怖い。


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