可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

なりたかったもの


「……お風呂、ありがとう」


お風呂を出て。愛さんが用意してくれた衣類を着て、そこに添えられていたクリップで濡れた髪をまとめて脱衣所兼洗面所を出ると。

渚が階段のところに腰掛けていた。あたしが寄って行くと渚は立ち上がって、じっとあたしの顔を見つめてくる。そのまなざしの強さにちょっと気押されしそうになる。


「……何………?」


聞いてから気付く。



-----あ。そっか。あたし、前髪あがってて、顔丸出しじゃん。



慌てて昔ババアに付けられた額の傷を隠そうとして、でもそれよりも先に渚の指がそこに触れてくる。

すこしだけ乾いてて、自分のよりも骨っぽい、渚の指。あったかいそれに触れられているとなんだか傷をやさしく手当てしてもらっているようで心が安らいでくる。

でも何故か、渚の方はいつになく落ち着かない表情だ。


「渚?……どうかしたの?」
「………いや。おまえってさ、マジで」


何かを言いかけたまま、渚は言葉を飲み込む。あたしを見つめたままの顔が、なぜか赤くなってる。

「………渚?」

渚がこんな顔するなんてめずらしい。っていうか初めて見るかも。

「どうしたの?」

下から見上げるように渚の顔を覗き込むと、渚はまるで悶絶するように半身を折って、手で口元を覆う。それからたまらなそうに呟いた。


「………無理だな。やっぱダメだ」
「何が?なんのこと?」

「だからさ。……他の野郎には見せらんねぇわ、おまえの顔」


まるで自分だけのものにしたいとでもいうような渚の言葉に、じわっと耳が熱くなる。

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