可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「………あたしにかまわないで」
喉から搾り出すようにそういって。
動揺を悟られないために、わざと何事もなかったように平気な顔して。
あたしが図書室の出口に向けてゆっくり歩き出すと。
「崎谷さん。彼女がいる人を好きになってどうするの」
七瀬由太は思いもよらない言葉をあたしに投げつけてきた。
七瀬の言葉なんかに動揺するはずもないのに。なぜかあたしの両脚はその場に縫いとめられたかのように動かなくなる。
七瀬はそっと立ちあがると、あたしの正面に立った。
今度こそ本当に逃げ損なうんだって分かっていても、あたしの体は動かない。
そんなあたしを見て、七瀬由太はやさしく笑う。
まるで可哀想だと同情するように。
「望みがないよね。ライバルがあんな非の打ち所のない、やさしくてきれいな人なんだから」
そういって高い背を屈めて、七瀬由太はもう一度ゆっくりあたしに顔を寄せてきた。