可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「興味本位でイジってもたのしい相手じゃないでしょ?いい加減七瀬くん、懲りたら?」
上目線な忠告をしてやる。
七瀬由太は俯いて肩を震わせたかと思ったら、突然笑いながら呟いた。
「………やっぱ崎谷さんいいわ」
皮肉みたいな感じじゃなくて、親しみを込めたようなその言い方に、あたしは柄にもなく当惑しそうになった。
「なんだろう。崎谷さんって、中毒性でもあるのかな……?」
「はあ?」
予期しえない七瀬の言葉。七瀬はさらにあたしを当惑させるようなことを言い出す。
「崎谷さんって、すこし渚と似てるよね」
七瀬が引き合いに出してきたのは、クラスの誰もがあたしとは正反対の存在だと思ってるその男の名前。
「……どこが?なんの共通項もないけど」
「そうかな?ふたりとも頭いいし」
「そういうのは似てる似てない関係ねぇし」
あたしの言葉を半ば無視して。
クラスの連中が聞いたら吹き出しそうなことを、七瀬は真顔で続ける。
「渚も崎谷さんも、他人を必要としてなくて、基本独りでも平気だよね。……俺と違って、周りにどう思われるとか気にしてなくて、顔色伺ってビクビクすることもなくて、全然強い」
七瀬由太にとって、小さい頃から庇って守ってくれる水原渚はヒーローみたいな存在で。
七瀬はあたしの姿にその水原渚を重ねて見ているのか、あたしの顔を子犬みたいな目でじっと見つめてくる。
その大きな目にあるのは、憧憬だとか、あたしがまったく想像もしていなかったもの。
「……ジャンル違わない?あっち王様で、こっちただのはみ出し者のカーストの最下層だけど」
「あえて自分からそのポジションに納まってるって点では同じじゃない?」
七瀬は分かったような口を利いてわずかに笑う。
その笑みは、どこか七瀬に似合わない男臭さがあって。侮り難いしたたかさを感じる。