可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「んー。何山根。崎谷さんが何だって?」
「ほら、見てよ解いてる数学。超難問」

「……うっげ!何それ!崎谷さん、それたのしい?たのしいのか!?俺にはもはや呪文にしか見えないんですけど」



そういって羅列した数式を見たニクちゃんが、コミカルな仕草で頭を抱えると。



「へえ。どれ?」


あたしの隣の七瀬由太までもが、あたしの手元を覗きこんで話に加わってくる。


「ほら、由太くん。ヤバくない、崎谷っちが解いてる問題」



七瀬由太に話しかける山根の声が、とてもわかりやすく甘くなる。
顔つきも、ニクちゃんとだべってるときより乙女になる。

その態度があまりにもわかりやすすぎて、うっかり山根のことがちょっとだけかわいく見えてしまう。



それにしても『崎谷っち』ってセンスの欠片もないそのあだ名はどうかと思うけど。



まあ、べつにどうでもいいけど。




「3年が解くような問題じゃん、これ」
「すごいよね。やっぱ崎谷っちって、めちゃ頭いいんだねー」


山根が本気で感心したように言うから、思わず無駄な一言が口からこぼれた。


「………良くないし。馬鹿だから勉強してんだよ」


冷え冷えとした声。喧嘩売ってるばりの無愛想。

普通ならどんなやつもここで引き下がって、あたしのこと陰で「何あいつ、感じ悪い」とか言いはじめるところなんだけど。



「どこがだよ!すごいじゃん、もう受験対策とかまじ尊敬。あたしやっと高校受験から解放されて、合格決まってからもうろくに勉強なんてしてないのにさ。もう大学受験見据えてるなんさ、さすがだよね」


嫌味っぽく聞こえただろうあたしの言葉なんて、まるで気にした様子もなく山根が言って。七瀬がそれに頷いて。


「馬鹿っていうのは俺らみたいなヤツのこと言うんだってば。俺らに比べたら超頭いいから。ってか崎谷さんってどの教科も指されて答えられなかったことないじゃん。今度俺指されたら、どうかまた助けてください!」


ニクちゃんはそう言って、あたしに向かって手を合わせ、拝むように頭を下げてくる。





-----------なんか仲良しごっこみたい。




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