可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「どうどうニクちゃん?」
「………えっと……?」
ニクちゃんは見るからに半パニック状態だ。
「どーなのよ、ニクちゃん!」
「あ。…………え。ってか。………ごめん。俺、女子の腕とか、触るのはじめて過ぎて、正直よくわからない。っていうか。崎谷さん、勝手にさわっててごめんなさい、………うわ、よくわかんないけど、な、なんかやばい……?」
あたしの腕から指を離せないまま、ニクちゃんの顔は赤く染まっていく。
「えーなんでわかんないのよ。じゃああたしのと崎谷っちのと、触り比べてみる?ヤバいよ、あたし最近お手入れサボってるから。触ってみな?ね?したらわかるよ、どれだけ崎谷っちがやばいか。やっぱあたしもバイトして脱毛しよー。ってかニクちゃんあたしにも触れっての!」
「や、いいって、やめろよ」
「もーニクちゃん、いい加減崎谷っちから手、離しなさいよ。いつまで触ってんのよ」
「………うん。わかってるけど、ごめんなさい。なんか指が離れてくれないみたいな……?」
「何、それ。セクハラかよ。たしかに崎谷っちの肌、めちゃすべすべで超病みつきになる触り心地ってあたしも思うけどさ。っていうかニクちゃん、崎谷っちには触れてもあたしには触りたくないっていうの?ひどい、差別じゃない?」
「え、なんでそこでキレるんだよ」
怯んでるニクちゃんの顔面に、山根が半分面白がりながら袖をまくった自分の腕を押し付けて、ふたりが馬鹿みたいな攻防をはじめると。
ガタッと。
教室に響くくらい大きな音がした。
一瞬でざわついていた教室が鎮まる。
みんなが一斉に音のした方を見ると、王様が立ち上がったところだった。
乱暴に扱われた椅子が、壁にぶつかってる。
渚は見るからに不機嫌そうな顔のまま教室を出て行く。
「………うわ。あたしたち、うるさかったかなぁ?」
山根が首を引っ込ませながら小声で言う。
「ちがうんじゃない?べつに山根がうるさいのいつものことっしょ。なーんか水原、ここんとこ苛々してるっぽいよなぁ」
渚の背中を見送りながら、ようやくあたしから手を離したニクちゃんが「水原が不機嫌だと、クラスの空気が重くなってまいるよなぁ」とぼやく。
「だよね。ラブラブ週間終わっちゃったっぽいしね。リア先輩、なんで急に来なくなったんだろ。あんなお似合いなふたりでも、ケンカすることあるのかね」
山根がそう言ったところでチャイムが鳴った。
次の授業がはじまっても、渚は戻ってこなかった。