可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「何笑ってんだよ、ブス」

「渚はさ、自分にだけ懐いてると思ってた野良猫が、他所で尻尾振ってるの見るのは面白くなかったんだ?」

「……おまえは猫って可愛い柄じゃねぇし、尻尾なんて振ってねぇだろ。どうでもよさそな顔で山根にも陸人にも。……由太にまで自分の手、ベタベタ触らせやがって。どんだけ安いんだよおまえ」

「なにそれ。別に安売りなんてしないけど、手ぐらい渚じゃなくても誰にだって触らせるよ。でも渚は気に食わないんだ?まさか自分だけがあたしの特別だなんて思ってた?渚ってお子様だよね」


渚の顔に、驚くような怒るような、それでいて悲しげなような呆れるような。
いろんな感情がちょっとずつ入り混じったような複雑なものが過ぎっていって。

でも渚はその全部を飲み込むように、能面みたいな無表情になって溜息をこぼした。



「……っと可愛くねぇ。ときどきおまえのこと、マジでボロボロにしてやりたくなるわ」



そういってあたしに背中を向けてしまう。

どうやら『その他大勢』扱いは、王様の逆鱗らしい。




「渚」

「………消えろ、ブス。話掛けんな」




拗ねてるし。





----------やっぱ可愛い。





そう思う気持ちは、見下すような、侮るような気持ちとは、ちょっと違う気がする。

なんだか胸にじわじわきて、温度があるような気持ちだ。

その正体の分からない気持ちに暖められた心が、あたしの口を勝手に押し開いた。



「『怒らないで。……だってあたし、ほんとは寂しかった』」



自分でも、思ってもみなかった言葉が出てきた。


< 88 / 306 >

この作品をシェア

pagetop