スイートな御曹司と愛されルームシェア
 姿を見られて嬉しく思った気持ちは、翔太との最後の会話を思い出して、すぐにほろ苦いものに取って代わった。彼が振り向き、後から歩いてきた桃色の着物姿の女を気遣うように足を止めたのを見て、咲良の胸が締めつけられる。

(あの人がお見合い相手の社長令嬢……)

 薄いビジネス誌を持ち上げ、メガネと目だけを覗かせてじっと見た。女は二十代半ばくらいで、着物と同じくらい清楚な雰囲気だ。その彼女が気乗りしない様子ながら何か言って、翔太が口元を緩めた。それから彼女の耳元に顔を寄せる。

(翔太くん、初対面の相手にくっつきすぎ!)

 翔太が何かささやき、彼女が手を口元に当てて驚いたような表情を見せた。だが、すぐに笑みに変わったその顔を見て、翔太もにっこり笑った。咲良を見惚れさせたあの眩しい笑みだ。

(彼はあの笑顔を……誰にだって向けるのね……)

 雑誌を持つ手が小刻みに震えた。咲良に見られていることに気づくことなく、今度は二人並んでゆっくり歩いて行く。二人の姿が緑の陰に隠れ、咲良はソファに背を預けた。

(美男美女で文句なしのお似合いカップルよね……)

 容姿がいいから性格がいいとは限らないが、彼女は翔太の話に社交辞令の笑顔ではなく、心からの笑顔を向けていた。

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