スイートな御曹司と愛されルームシェア
(翔太くんだってあんなに嬉しそうに笑っていた……。彼女なら翔太くんに居場所を作ってくれそうね。きっと穏やかで温かい家庭、翔太くんがくつろげる家庭を……)

 そこまで考えて、下唇を噛んだ。そんなのは嫌だと思った。でも、咲良では戸田創太には認められない。咲良では戸田家に翔太の居場所を作ってあげられないのだ。

(一昨日、翔太くんを拒否したのは私の方でしょ。何を今さら傷ついてるのよ。しっかりしなさい、咲良)

 今日は翔太の結婚相手がどんな女性なのか、元飼い主として気になったから来ただけなのよ。

 心の中でそう言い訳をしながらも、息が詰まりそうなほど苦しい。視線をコーヒーカップに落としたが、もう続きを飲む気にはなれなかった。お会計をしてもらおうと辺りを見回したとき、さっきのミュージシャン風の男が、テーブルで会計を済ませて立ち上がった。そうしてパティオに向かってまっすぐ歩いて行く。

(彼も散歩するのかな。私はさすがにそんな勇気はないわ……)

 最後にもう一度翔太の姿を見たいと思ったが、何度見てもきっと切なく、苦しくなるだけだ。咲良は小さく首を振った。

(さっきのあの雰囲気なら、二人はきっと仲のいい夫婦になるわね。そうして翔太くんはすぐに私のことなんか忘れてしまうね……)

 鼻の奥がつんとして涙の予感がする。涙をやり過ごそうと咲良はギュッと目をつぶった。



< 138 / 185 >

この作品をシェア

pagetop