スイートな御曹司と愛されルームシェア
「何?」
「いえ。咲良さんがきちんと髪を下ろしているのって初めて見ました。すごく艶やかな黒髪ですね。こういうのをカラスの濡れ羽色って言うんでしょう?」
「な、何言ってるのよ」

 いくら自慢のパーツとはいえ、明るい髪色が多い昨今、ここまで手放しで男に誉められたことはない。その慣れない事態に戸惑い、咲良が照れてドリンクをゴクゴク飲んでいると、翔太が言う。

「メガネ姿も凜としててステキでしたけど、コンタクトの咲良さんもいいですね。とてもナチュラルでキレイです」

 その言葉に咲良は思いっきりむせてしまった。ゴホゴホと咳を繰り返す彼女の背中を、翔太がさすってくれる。

「大丈夫ですか?」
「ん……大丈夫」

 ひとしきり咳き込んでから、ようやく咲良は顔を上げた。長女気質なせいか、人のやることにあれこれ手や口を出しては鬱陶しがられることの方が多い。そのわりにマイペースで空気を読むのが苦手。母や妹には文句を言われてばかりだ。そんな不快な気分を振り払おうと、〝とてもナチュラルでキレイです〟という翔太の言葉を頭の中でリピートしたら、頬が勝手に熱くなった。

「本当ですか? 顔が赤いですよ。汗を搔いたからのぼせてるんじゃないですか?」

 翔太の手が咲良の頬に触れた。その親しげな仕草にドキッとして、咲良はとっさに彼の手を払いのけた。
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