今宵、桜の木の下で

保育園の体操服らしきものを着ている。

しかもちょっと、汚れてるし。

頭には赤白帽のような園児の帽子。

だけど、―― 緑色。

天然パーマのようなクリクリした髪型で。

よーく見ると、かわいらしい。

むちっとした白い肌が、柔らかそうだ。


「ね、イクラちゃん、―― 君はどこから来たの?」

『イクラちゃんじゃないよ、イクラだよっ』

「あ、イクラね……」


どっちでもいいんだけどな……そういうわけにはいかないんだ。

でも何だか……サザエさんみたい。


『イクラちゃんみたいにちいさくないもんっ』


あ、サザエさん、知ってるんだ。


『サザエさん、しってるもんっ』


ムキになって食いついてくる格好が可愛くて

「ごめん、ごめん」

思わず吹き出してしまった。


イクラは私の頭の中を読んで答えていた。

声を出さないで、会話できるのならば……。


イクラはどこから来たの?


どうして私の所に来たの?


しっかりと視線を交わしたまま、問いかけた。


だけど、―――。


『わかんないんだもん』

「そっか……」

『なんでかなあ』

「あ、――!!」


すうっとイクラは薄くなっていく。


き、消えちゃった……。


っていうか、これ、――――――。



やっぱり、本物の幽霊、だよね?

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