今宵、桜の木の下で
昨日はなかなか寝付けなかった。


「熱っぽいかも」なんて言っちゃったから、あれから佳奈子さんがやってきてすっかり病人扱い。

食事も部屋に運んでくれたし、20時にはベッドの中に入れられてしまった。


だけど、―― 眠れるわけがない……。


だって、――

生まれて初めて幽霊というものを見てしまったんだもん。


幽霊だなんて……もっと怖いものかと思っていたのに、小さな子どもの幽霊の名前は「イクラちゃん」

柔らかそうな肌も長い睫毛もしっかり見えたし、怒ってむきになるところとか可愛かったしね。

冷静に思い返してみたら、―― 怖いというよりは、正直驚いたっていうか……。

いやいや、誰だってそうだよね。


あの子は幽霊で、

しかも見えているのが私だけ。


そう頭で理解するまでに、時間が掛かったいった方が正しいのかも。

もう出てこないのかな。

聞きたいこと、いろいろとあるのにな。

うーん。待てよ?

幽霊ってことは夜中に出てくるものじゃない??

人が寝静まった頃とかに、フッとね??


じゃあ、起きてなきゃ、――。


なんて思いながら、しばらく待っていたのに。


結局、――

イクラちゃんは現れなかったのだ。

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