今宵、桜の木の下で

駄目じゃない。

駄目じゃないけどっ……。


慌てて起き上がってみるものの、携帯を持つ手に力が入り過ぎて、私はそのまま後ろに倒れ込んだ。


「…駄目じゃ、ない…けど……」


天井を見上げ、呟いた自分の言葉が身にしみた。


「……入江??」


黙ってしまった私に藤木くんの不安そうな声が届く。


「…あの、―――。
お、女の子とメールしてたら彼女とか嫌がるんじゃ―――」


一気に加速しそうな思いに、泣きそうになった。


「彼女とか、いないよ」

「え、―――」

「彼女がいたら、どうして他の女の子とこんなことするの」

「…っ……」

「あ、もしかして、―― 入江って、彼氏とかいた?」

「いっ、いませんっ」

「そっか、―― 良かった。
俺、ひとりで先走ってたのかと思った」


これって……どういうこと??

私また、勘違いしちゃうよ??

自意識過剰になって……期待しちゃうんだから。


「じゃあ、明日、一緒に帰れる?」

「……うん」

「じゃあ、18時半頃また美術室まで迎え行くよ」

「あっ、迎えとかは……別に大丈夫だから」

「そう?? じゃあ中央玄関で待ち合わせでいい??」

「うんっ」


瑛理奈の祈り、効きすぎだよ……。

どうしよう……。

明日も一緒に帰れるなんて、今から緊張して眠れないよ。

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