歌声は君へと


 ――――化け物。

 それは様々なことで耳にする。魔物に対してであったり、人間であったりとするのだが、実際、その"化け物"というのが私のようなことをいうのだろう。

 大体臍あたりから上は、人間である。なら、その下はどうなのか。

 鱗と長いその姿は、蛇だ。

 人間の身長が二メートル以内におさまるのに対して、私は下半身を含めると二メートルを超えている。
 まさに、化け物だ。
 下半身が蛇であるため、移動は蛇と同じように這うようにして移動する。上半身は人間と変わらず、腕もあり、また胸もある。


 どうして、こんな姿になったのか。
 私だって、初めからこんな姿ではなかったのだ。





『木漏れ日の中、君を待ちましょう。春はすぐそこに、ほら』

『見てごらんなさい。君は目覚めた花たちの出迎えをうけるでしょう』




 私が歌うと、続けてキアラが歌う。
 昔から歌は好きだったか、こんな姿となってから奇妙なことが起こるようになった。
 私が歌を歌えば、傷ついた植物や動物が元気になる。寄ってくる。それは、普通だったときにはなかった。こんな―――化け物となってしまってからだ。
 それは確かに便利だった。
 多少体が丈夫であるとはいえ、生きていかなくてはならない。
 そうなるとやはり食べ物大切だ。植物に歌いかけたりすると成長が早くなるし、あとは、そう。魔物は近寄ってこないことはよかった。流石に魔物をどうこう出来るとは思えない。

 人々は、魔物を恐れる。
 それはもちろん、魔物は人々を襲うからだ。
 人々は、化け物を恐れる。
 それはもちろん、未知なものだから。




『ひとつ、君の歓迎として』

『ひとつ、君の幸せを願って』

『私は花束を作りましょう』




 近くに小鳥が寄ってきていた。
 キアラが指先でおいで、と誘えばその指に止まる。
 くすぐったいと思ったら、肩に小鳥が止まっていた。




「ねえ、イシュお姉ちゃん」

「なに?」



 バサバサと翼をはためかせ、小鳥が飛んでいくのを見送る。
 すぐ近くには、キアラと住んでいる家が見えていた。「どうしたの」キアラが私の服をつかんで「一緒だよね」という。急にどうしたのだろうか、とキアラを見ると、キアラは別のところを見ていた。
 何を見ているのだろう?
 私はキアラの視線の先を辿るように見ると、ああ、と納得した。

 そこには、巨体。
 大きさでいうと、大人が乗れるだけのものだ。
 白銀の毛はふわふわとしていて、しかしながら顔は凛々しく、何だか貴族みたいな感じだな、だなどと思う。貴族、いや、なんだろう。
 一見近寄るなと吠えたててもきそうで、普通は近寄らないだろう。
 しかもそれは、魔狼なのだから。




「スノウも、私も、イシュお姉ちゃんの家族だよね?」




 ――――ああ。




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