歌声は君へと



「勿論。家族よ」

「うん!」




 スノウー!とキアラが、スノウへ突進していく。スノウはスノウで黙ってその抱擁を受け止めていた。


 スノウは、キアラよりも前に来た。
 来た、というのは正しくない。


 あの子は、酷い怪我をしていた。
 あの白銀の美しい毛を、赤色に染めていた、小さな狼。

 私は放って置くことは出来なかった。
 小さな狼は、牙を向いて近寄るなという様子を見せたし、噛みついた。けれど、私はそのまま構わずにさせた。親は何処にいってしまったのだろう。この怪我はどうしたのか。言葉を話せたらわかるが、と噛みつかなくなった狼を家へと運んで看病した。
 もしかしたら、死んでしまうかも知れない。

 そんな覚悟をしたのだが―――と、キアラとじゃれついているスノウを見る。
 あれからすっかり元気になった。
 小さな狼は、どこかへ行ってしまうだろうと思っていたのだが、離れることはなかった。それどころか時おり、兎や鳥なんかを捕まえてきて、「捕まえてきたぞ!」とでも言わんばかりに私の側に持ってくるのである。
 しかも、だ。
 怪我をしていたときは小さな狼と思っていたのだが、日々だんだん大きくなり、今ではキアラを乗せてもけろっとしている。普通の狼ではないと気づいた値は、普通の狼の大きさよりも大きくなっていったからで。 
 キアラが来たばかりのころは、よく側にいてくれた。危ないことをしないようにと。

 キアラのいい"お兄ちゃん"なのだ。
 

 けれどスノウも、キアラも、私も。
 一人、なのだ。




「イシュお姉ちゃん?」




 はっとして「何でもないよ」と笑った。




「ねえ、スノウと散歩にいってきていい?」

「いいよ。でも気をつけてね?何かあったらすぐ戻ること――――スノウ、キアラのことをよろしくね」




 スノウの頭を撫でると、わかった、とでも言いたげな顔をしてキアラとともに森の奥へと消えていく。
 
 それを見送りながら、溜め息。
 ―――いいのだろうか。

 私は仕方ない。こんな姿だから。
 けれどキアラは違う。普通の子供だ。たまに私が文字を教えたりしてはいるが、それでもやはり、と考えてしまう。
 あの子は、このままいていいのだろうか。
 しかし、キアラはここを離れないだろう。私の傍を離れないだろう。
 できる限りのことをしてあげよう、と思う。こんな私でも、出来ることを。



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