歌声は君へと




『遠いあの日、夢を見たの』



 家の近くの草むしりをしながら、歌う。
 家と言っても小屋、のほうが合っているかもしれない。
 もともと森に出入りしていた人のものだったようだが、長い間使われていなかったのを私が使っているだけ。
 畑だって、その小屋にある鍬なんかで時間をかけて作ったもの。キアラがいるから、また広げようかと思う。
 



『それは酷く懐かしい思い出。もう遠い記憶で、私を悲しくさせるけれど、大切で、確かにそこに、私がいた証で』
 



 いつまで、この姿なのだろう。
 彼は、どうしているだろう。
 未だにそんなことを思って、馬鹿みたいだと思う。馬鹿みたい。本当に。




『ねえ貴方、貴方はあの時』



 ――――イシュ。
 ――――僕は、君のことが。



 
 ぽたり。
 ああ、本当に。
 落ちた涙を、私はそっと拭う。こんな姿をキアラに見られたら、あの子が不安がる。

 思い出など、その名の通り"思い出"なのだ。それだけでは生きていけない。
 私は、生きなくてはならない。
 スノウもそうだし、キアラもいる。私はもう、一人ではないのだから。




『愛しているといってくれたわね』




 崩れ落ちそうでも、化け物だと言われても、私は生きていかなくてはならない。



 そして、歌を歌うのだ。



 かつて君が「好きだ」といったこの声で。






  ▼1 女、唄をうたう 了


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