歌声は君へと
――――それは突然だった。
スノウに乗ったキアラが滑り込むように私のもとに戻ってきたのは。
「イシュお姉ちゃん!」
「なに、どうしたの?」
「人!」
「人?」
あのね、と興奮してるために話が進まず「キアラ、落ち着いて」と軽く体に触れる。スノウもまた体を寄せ付けたので、多少冷静になったようで「あのね」と続ける。
それは近くの川に人が倒れている、ということであり、酷く驚いた。
ここには人は近寄らない。
なので私ら以外の人は、ここでは見ることはない。
川、ということは流されて来たのだろうか?それにしても…。
不安そうなキアラが「どうする?」と聞いてくる。
人、というのはどうも男らしい。しかも"いっぱいつけてた"とキアラがいっている。旅人か、傭兵か…。どちらにせよ、キアラが見つけたというなら、放っておくことは出来ない。
それに目を覚まして、へたに彷徨かれてもな、と思う。
「キアラは―――」
「私も行く!」
びしり。
危ないから、と続ける予定であったのになと「じゃあ行こうか」と私は諦めた。勿論、スノウもまた「わぉん!」と吠えて返事をし、キアラを背中に乗せた。
私はスノウについていくようにして向かう。向かいながら、回りを見て歩いた。何か変わったことがないかと思ったのである。
しかし特にこれといってなく、ただ鳥のさえずりが心地よく響くだけだ。
しばらく歩くと、角のとれた石が広がる場所に出る。
こっちだよ、というキアラに従い、私は石の上を這うようにして向かう。石がぼこぼことしていて、この体でも若干歩きにくい。いや、蛇が"歩く"というのもなんだかあれだが、と一人突っ込みながら「あっ」と小さくもらした。
確かに、人だ。