金魚鉢越しの空





「うっ...うぅ...」

 大きな衝撃で嶺人は目を覚ました。
 まるで背中が鉄の大きなハンマーで殴られたような強い衝撃だった。

「......か、さん...おと...さん」

 何が起こったのか分からない。
 ただ一方的な暴力を振るわれたような感覚。
 嶺人は必死に両親を呼んだ。

「...おか...あさっ...ん...おと...うさ...」
「っれ...いと............。」

 両親を呼ぶ声に父親の返事が帰ってきた。
 今すぐに父親を見たいし触れたいのに余りの痛さに目が開かない。
 何故か煙たくて噎せて呼吸がうまく出来ない。

「おと...さぁ...ゲホッゲホッ」
「れい...ゲホッと...。ゲホッにげ...ろ...」
「ゲホッえっ...?」

 咳き込みながら、何とか出す声は細く上手く聞き取れない。
 嶺人は体の痛みはあるが何とか動こうとする。すると、左手がドアに触れた。
 ここを開ければ煙たくて噎せる事も無くなるかも知れない。
 嶺人は左手でドアを開こうとする。だが、中々上手く開かない。

「開かな...ゲホッゲホッ...」

「おい、子供が居るぞ!!開けろ!」
「ドアが曲がっちまってる!!」
「無理矢理引け!!」

 知らない男の人の声がドアの向こう側で聞こえる。

「嶺人...ゲホッゲホッ...押せ...」

 父親の声が聞こえた。
 嶺人は必死にドアを押した。
 ミシリと骨が鳴るのが聞こえた。
 凄く痛かったが、そんな事言っている場合じゃないのは分かった。

「くっ...ぐっ...!」

 早く開けなくちゃ。早く開けなくちゃ。早く開けなくちゃ。早く開けなくちゃ。早く開けなくちゃ。



「嶺人。生きろよ。」



 うっすら開けれた目の横から太い腕が見えた。
 その腕はドアをグッと押した。
 その瞬間中々開かなかったドアがギギィッと音を立てて開いた。

 知らない人達がいた。
 その人達は嶺人を引っ張り車から出した。

 太い腕が嶺人の細い腕を握った。
 やっと開いた目が車の奥で笑う父親を映した。

「とう...さっ...」

 スルリと程けた腕。
 奥で笑う父親。

 嶺人は知らない人に抱き抱えられ、ドンドンと離れていく。

 父親の表情が見えなくなったその時。



ドカンッ!!!!!



 凄い音と熱が一気に嶺人を襲った。
 ビクッと目を瞑り、また開くと、そこには燃え盛るさっきまで乗っていた車の姿があった。

「いやだ...あぁ...」

 目頭が熱い。

「いやだ、いやだ」

 身体中痛かったはずなのに今は何とも感じない。

「い、いやだ」

  『嶺人。生きろよ。』

「いやだぁぁああああああああああ!!!!」

 知らない人の腕の中、必死にもがく嶺人は顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いた。
 燃えている中にお父さんとお母さんがいるんだ!!
 どうして離れるんだ!!
 自分だけが生きるなんて嫌だ!!

 嘘だ!!


 嘘だ!!!




< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop