想いを伝えるその日まで
 奈由は、出会ってすぐに透に恋をした。
 だけど透は、初めから奈由に恋をした訳ではないはずだ。

 初めは、ただの友人。

 だからなのかは分からないが、透は徐々に奈由にも口の悪さを出し始めるようになった。
 仲良くなるにつれ、奈由は透の口の悪さに気づく。

 きっと、傷ついたこともあっただろう。
 素直じゃない透の、素直じゃない言葉に。

 もしかしたら、透への気持ちに悩んだこともあるかもしれない。

 だけど今、奈由の恋は終わっていない。
 それは、恋する奈由の想いの方が、何よりも強かったからだと思う。

 奈由の一途さに、俺の心も和らいだ。
 それに、透のマイナス面ばかり並べたが、透はそんなに悪い所ばかりの男でもない。
 たしかに恋人はしょっちゅう変わっていたし、素直じゃないから口も悪くなる。
 だけど心の底は優しくて、意外に涙もろい純粋な面もある男だ。

 だから俺は、透を嫌いになれないのだ。
 だから透は、俺の親友なのだ。

 透が奈由にいつ恋をしたのかは、俺には分からない。
 もしかしたら、透自身も気づいたら、というタイミングだったのかもしれない。

 その中で、どうして俺が透の恋心に気付いたかというと、これがなんとも笑える。

 あの、恋人がしょっちゅう変わっていた男が。
 あんな伝説さえ嘘だと思えてしまうほど、大人しくなってしまったからだ。

 学校中の女子にも、街行く女性にも、目を向けない。
 告白をされても断る始末。

 それに加えて、奈由と話をしている間中、顔を赤らめているのだから、それはもう決定的だろう。

 親友としては笑える話だが、奈由の兄としては心から嬉しかった。



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