今年の夏休み
ワタナベは受け取り「おいし」と言って喉を鳴らす。
俺はちょっとおかしくなった。


「もしかして不器用な方とか?」
「まーね」
「酒作るの、上手かったのに」


ワタナベはムッとしたように睨みつけて、
「誰かに言うの?」って聞くから
慌てて「言わない」って言って「絶対に」と付け足した。
ワタナベは、まだ信用ならないといった感じで睨んでいたけど
足をバタバタと動かしてから「ま、いいや」と小声で言った。


「この間一緒に来てた人達って、バイト先の人でしょ?」
「うん、酒屋。今日も昼飯食ってから行くよ」


金貯めて、買いたい自転車のこととか
バイト先に来た客との話とか、
思いつくままに矢継ぎ話す。

話し辛いと思っていたけど、
ワタナベは案外話しやすいタイプかもしれない。
相槌のタイミングとか、途中に聞かれる質問とか。
冗談を言えば、笑うし、ツッコミも入れてくれる。
話が尽きず、気が付いたら1時間近くベンチで話していたことになる。


「やべ、家で飯食ってたら、バイトに間に合わなくなりそう…
 もう帰るけど、ワタナベはどうする?」
「もうちょっと図書館にいる」
「んじゃ、また!」
「また、ね」


少しだけ別れがたかった。
せっかく同じ駅なのに。
ワタナベと帰り道もいろんな話ができるかも、
と少し期待して裏切られた気持ちで家路についた。
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