今年の夏休み
絵の具が所々こびりついた作業机には、
筆がいっぱい突き刺さったバケツやら絵の具、パレットと
出来立てのポスターが乾かしてある。

商業用のプロが作ったポスターみたいだ。

そう言うと
「自分でもなかなかの出来かな、って思ってるの」
とワタナベは笑って言った。


「洋服を作ったりもするの?」
「うん、子供の時から部屋に閉じこもって絵を描いたりお裁縫したりするのが好きだったんだ」


「これも」とベッドに腰掛けていたワタナベがクッションを投げてきた。
おお、と受け止めると、
「ほらこっちも」と顔をめがけて投げつけてきた。
「やったな!」とハートや、長細いのとか、丸とか
不揃いの形のクッションを投げ合って
宙を舞うそれらの下で、子供のようにキャーキャー騒ぎ合った。

部屋をよく見ると、カーテンやカレンダー、掛け時計も既成のものとは違うような形で
遊び、と称して全てワタナベが作ったもので、この部屋は出来上がっていた。

くだらないくらい大騒ぎして、息を整えながらワタナベは
「また遊びにきて」
と言った。


「配達のついで、とかじゃなくて」
「え?ああ、うん」
「ビールね、いつも頼んでいるお店があるんだけど、
 富永くんのお店にして、って頼んだの」
「そ、そりゃ、どうも」


こういう時、気が利いた受け答えってどうすればいいんだろう?
暑いね、パタパタと手をうちわに見立てながら扇ぐワタナベの
剥き出しの肩とか、スラリとした膝から下とか
服の下はどうなってるんだろう?
なんて不埒なことなんかを今日一番意識をしてしまって
あんなに暴れても、胸がズレなくて良かった、本当に良かったって思った。

もしずれたりした時、どうしたらいいか?なんて誰も教えてくれなかったし。
大学生の佐古さんならわかるだろうか?
それとも岡田ん家のパソコンでネットででも調べておくか、なんて思った。


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