佐藤くんは甘くない






───ばちん、と耳元で、響いた。





一瞬、何の音なのか分からない。

ただ、目の前で酷く怯えた佐藤くんが、右手を振り上げているのだけが視界に入った。




「───ひっ、」


すぐ近くで、ひまりちゃんが悲鳴を上げる。その声で、私はようやく、理解した。ああ、そうか。私は、佐藤くんに殴られたのか。


痛みは、無かった。

ううん、あったのかもしれない。でも、今の私にはそんなことを感じる余裕だってなかった。


凍りついたように、時が止まったみたいに、誰一人として動かなかった。


そして、最初に口を開いたのは───




「───ぁ、」



佐藤くん、だった。



< 202 / 776 >

この作品をシェア

pagetop