大好きな君へ。
 片付いたテーブルの上に図書館で借りてきた秩父札所めぐりの本を広げる。
第一番札所四萬部寺から第三十四番水潜寺まである。
気になったのは結願は善光寺と北向観音だと言うこと。
私は三十四番だとばかり思っていたのだった。
地図……観音像と続き、用具と参拝の手順が記されてあった。


結夏さんの御両親よりお借りしてきた白装束を一つ一つチェックする。
無いのは納経帳と納め札くらいだった。




 次に参拝の手順だった。

まず山門で一礼する。
仁王門の場合は左右の仁王像に一礼してから境内に入る。
出水場に行き、手と口を清める。
出水で身を清める。
左手、右手の順に清めてから、左手の水で口をすすぐ。


鐘楼で鐘を付く。
必ず参拝前に付く。参拝後に鐘を付くのは戻り鐘と言って縁起が悪い。
鐘楼のない所では省略する。
鐘を付くことを禁じている札所もあるので注意する。
早朝や夜はつかないこと。


輪袈裟と念珠で身支度を整える。
数珠を持ち、輪袈裟を確認してから本堂、観音堂へ向かう。




 持参した納札を納める。
指名等を記入したものを納める。
他に写経等があれば所定の箱に納める。

灯明と線香、お賽銭を上げる。灯明は上段から上げ、線香は中央に立てる。

読経し、合唱する。
本尊に向かって合唱する。読経に際しては数珠を手にしてもよい。開経偈、般若心経、観音経などを読経する。


墨書と朱印をしてもらう。

納経所で所定の納経料金を払う。
納経掛軸や判衣のある人は一緒に出す。
納経時間は札所および季節により異なるので注意する。

本堂に向かって一礼し、山門を出る。

札所で他の参拝者に出会ったときは互いに挨拶を交わすように努めたい。
マナーを守って参拝し、他の参拝者の邪魔にならないように注意する。




 黙読でその手順を何度も確認する。
結夏さんの霊を癒し、隼人君を賽の川原から救いだして私の子宮で育てるために……

それなに、私は隼との子供を授かる行為をしようとしていたのだ。
隼が征してくれなかったら、私は隼人君の母親になれなくなるところだったのだ。




 「ねえ隼。御詠歌の横に真言ってあるでしょう? 般若心経もだけど、これだけでもいいんじゃないのかな?」


「一番が《おんあろりきゃそわか》か……うん良いんじゃないのかな」


私達はこの本を持参することにして頭陀袋の中に入れた。





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