大好きな君へ。
 「本当のことは僕も知らなかったんだ。だからニューヨークにいる両親を本当の親だと信じていたんだよ。叔父にあの日真実を聞くまでは……」


「叔父様が私も誘ってくれたから……、私もあの場に同席させていただけて感謝しています」


「叔父はきっと全てを悟ったんだと思うよ。だってドアを開けた途端に僕と優香がキスをしていたんだから……」


「面食らったのかな?」


「ううん、きっと喜んだんだと思うよ。叔父は優香が僕のことを好きだって知っていたから」

その言葉を聞いて、隼の席に移動して唇を重ねた。
それは思わず出た行動だった。
私は隼に愛してもらいたくて此処にいるのだから……


隼は目を白黒させて驚いていた。


(私だって驚いたんだよ。まさか私がこんなに大胆になれるなんて……、本当に思いもよらなかったんだよ)

隼とキスしているのに、余計なことばかり考えている。

ねえ、隼……
このまま私を抱いてくれない?




 それでも隼は私の唇をそっと離した。


「優香……本当は優香を抱きたい。でも、今日は駄目だ。又結夏のことを出すけど、いい?」

仕方なく頷いた。
そうなんだ。
明日は結夏さんと隼人君の御霊を成仏されるための儀式だったんだ。
そんな日の前日に……
私ってなんて罪作りなんだろう。


「解ってくれてありがとう。五連休で何処まで行けるか解らないけど、まずはそれを済ませてからだ」

隼はそう言いながら席を立ってトイレに向かった。


「ゆうかの意地悪……」
隼はそっと呟いた。


(ねえ隼。今どっちのゆうかに向かって言ったの?)

本当は解っていた。


私には、こんな日に興奮させないで……
結夏さんには、僕は本当は優香を抱きたいんだ。
だと思った。


(悪いことしちゃったな。ごめんね隼。そして結夏さん……





 私はテーブルを片付け始めた。
明日から暫く留守になるこの部屋。

帰って来た時に清々しくなれるように……

キッチンも念入りに磨いた。


その時、後ろに人の気配を感じたと思った瞬間に隼の腕が私を包み込んだ。


「キスだけでいい?」


「ズルいよ隼……」

そう言いながらも隼の優しさに涙する。


(隼ありがとう)

それは軽く触れるだけのキスだった。
それでも私は、必死に疼く身体を納めながらも隼の唇に酔いしれていた。
罰当たりだと思いながらも……



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