大好きな君へ。
 結夏さんの誕生日。
隼は翔君のために、父親である孔明さんのお兄さんが無実だと嘘をついた。


自分と同じように寂しい思いをさせたくなかったからだ。


『翔は男の子だろう? だったら女の子を泣かせてはダメだよ』

私が翔君に何度目かのパンクをさせられたあの日隼は言った。


『女の子はね、力が弱いから大切にしてあげなきゃいけないんだよ』

でも当人の翔君はキョトンとしていた。


『原島先生すいません。僕にくれたあの言葉を使わせてください』


『あっ、あの言葉ね。でも辛くない?』


『大丈夫です』

隼はそう言った後で翔君を抱き抱えてブランコに座らせた。


『園長先生、一体隼に何を言ったのですか?』
私は隼の言葉が気になって園長先生に尋ねた。


『中野先生がブランコで怪我をした時に言ったの。『女の子は赤ちゃんを産むことの出来る大切な体なのよ』って』


『えっ!?』

私は言葉を失った。
だって翔君は、結夏さんを太鼓橋の隙間から落とした孔明さんのお兄さんの子供だったから……


『『だから大切にしてあげないといけないのよ』って言ったら、隼君は『僕がずっとブランコに乗っていたからかな?』って言ったの。『仲間に入れて貸してあげなかったからかな』って。必死で理解しようとしていたの。だから中野先生がお母さんに連れられて帰る時、私の後ろで我慢していたのよ』

園長先生はそう言っていた。




 隼は本当は孔明さんのお兄さんを許してなんかいない。

翔君のためだと信じ、自分の犯した罪だとは思い寛大に見せ掛けていただけなんだ。

太鼓橋の隙間から落ちた時点で救急車を呼んでくれていたなら結夏さんは死なずに済んだはずなのだ。


子宮外妊娠の子供は流れたとしても、結夏さんは隼の傍にいてくれたのかも知れないのだから。


だから隼は辛いんだ。
未だに自分を攻め続けているんだ。


あの日、結夏さんを是が非でも送って行かなかったことを……



 噂の大女優の子供の恋人であることを結夏さんは隠していた。
きっと隼に迷惑を掛けたくなかったんだ。


だから一人で帰ったのかも知れない。


ストーカーと言っても危害を加える訳でもなく、ただ傍にいるだけだった。
だから大胆に、バイクでアチコチに出掛けられたのだ。


名前も顔も解らない。ただ後をずっと追ってするストーカー。
本当は怖い。怖くて堪らない。
だから結夏さんは隼と駅前の銀行であった時、ほっとしたのだろう。




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