大好きな君へ。
 私達は徒歩で西武秩父駅近くにある観光案内所前に来ていた。
でもまだ開いていなかった。


「嘘だろ。札所の納経所が八時から開くのに、サイクル巡礼をうたっている観光案内所が九時からだなんて……馬鹿にしてる」
隼が言った。


「まだ八時前だよ。こんな場所で一時間以上並んで待たなければいけないのか……」

隼は携帯で時間を確認しながら不満をぶちまけていた。


「だったら先に十二番へ行く?」


「そうだな。うん、そうしよう」

隼は頷きながら言った。

そう言ってはみたものの何だかしっくりこない。


「巡礼者の都合なんて考えてもいないんだよね。お役所仕事だからかな? 自分達に合わせろってことなんだよ。それとも……」


「それとも?」


「サイクル巡礼なんて姑息な手を使わず歩けってことかも知れないな」

私は隼の言葉にショックを受けていた。


「姑息って?」
だから私は聞いた。


「自転車で回れば早いなんて考えたから、きっと罰でも与えるつもりなんだよ」


「でも自動車やバイクの人もいるのよね? その人達に比べたら……姑息な手段なんて言えないよ」

私は隼を宥めるように言った。
だって、どの札所にも駐車場はあるし、タクシーで回っている人もいる。そう思った。




 でも結局始めに行ったのは、宿屋に一番近くにある十三番札所の慈眼寺だった。


十二番は二十六番と近いので一緒にまわることにしたのだ。


十三番は飴薬師の寺だと聞いた。
七月八日はブッカキ飴の市が立つと言う。


聞いた話によると、その飴は七五三の千歳飴を一口大に叩き割ったような物らしい。
だからブッカキ飴と言うそうだ。




 でもその前に此処は慈眼寺と言う名前が示すように眼のお寺だそうで、絵馬にはめと逆さのめが二つが大きく書かれていた。


「あれっ、この絵馬何処かで見たことある」

私はそう言いながら考え込んでいた。


「あっ、解った川越だ。確か時の鐘の先の川越薬師にこの絵馬そっくりなのがあったわ。同じ薬師だからかな?」

思い出してスッキリしたのか私は大きな声を出していた。




 「おん、あろりきゃ、そわか」

山門で所作の後で聖観音のご真言をて唱えた。


納経所で目薬の木のお茶を貰って飲んだ後、ふと秩父観音霊験記がないことに気付いた。
訪ねてみたら、脇にある建物の中にあると言われた。


その中に入って驚いた。秩父札所一番の施食堂のような物があったからだった。




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