大好きな君へ。
 本堂前に橋立鍾乳洞の入口があり、納経所で入場券も販売していた。


「鍾乳洞なんて初めてだ。入ってみようか?」

僕が言うと優香が頷いた。


こじんまりとしていて狭い。
暑さ寒さも彼岸までとは言っても陽射しはまだ真夏のようだ。
こう言う時の鍾乳洞は流石に涼しくて気持ちいい。


暫く行くと、胸付八丁ほどの上がり階段があった。


「何となく胎内潜りに似ているな」
何気なく言っていた。


「胎内潜りって?」


「結夏と行った……」

そう言って僕はかたまった。


「話して、結夏さんとの思い出聞きたい」

優香の真剣な眼差しは、薄暗い地下でも良く見える。

僕は躊躇いながらも話し出した。


「吉見の百穴ってトコの近くに岩室観音ってのがあって、胎内潜りと言う急な階段があるんだ」


「胎内だから余計なのかな?」

優香はそう言いながら僕の手を握り絞めた。


「さっき岩井堂へ寄っただろう? 実はあの時から思い出していたんだ。懸崖造りは埼玉県には四箇所あるそうだ。さっきの岩井堂と吉見岩室観音……秩父には後二つ、三十二番札所と太陽寺だ」


「えっ、太陽寺!? あの、関東の女人高野と呼ばれるトコ?」

僕は頷いた。


「わあ、一度行きたかったの。へーえ、其処も懸崖造りなのか……」
優香は何故か遠い目をしながら言った。




 二十九番長泉院
山門前に樹齢約百五十年の枝下桜の古木があり人の目を楽しませると言う。


その寺の近くにあるのが、樹齢五百年を誇る枝下桜が何本も残る名所の清雲寺だ。
実はこの桜は其処の苗をいただいたそうで、別名よみがえりの一本桜と言うらしい。


杉の木の日陰で育たなかったけど、浦山ダム建設時にそれらが伐採されてからは良く育ったら。


門前で巡礼者を迎える延命地蔵の向こう正面には、沢山の花が咲き乱れていた。


「おん、あろりきゃ、そわか」
所作の後聖観音のご真言を唱える。
本堂前に絵を描いた石が数個あった。


このお寺は江戸時代に二度火事で消失している。
その後に建てられたのが今の本堂だそうだ。




 三十番へ行こうと左に折れ、次の路地を左に曲がったった。
其処にあったのは休憩所だった。
其処でオニギリを食べてから青雲寺稲荷神社を抜けた。


でもその後が大変だった。
案内板を見失い、目的地に着かないのだ。

気が付いたら、三峰口駅前にいたのだった。

僕達は仕方なく、其処から電車に乗って御花畑駅に戻って来ていた。




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