大好きな君へ。
 白久駅に着いたの時はまだ八時前だった。


「これから大変な行程になると思うけど、最後まで頑張ろうね」


(昨日のように標識を見逃すこともあるかも知れない。だから無理はさせたくない)

優香の言葉に頷きながらも、引き返すことも勇気なんだとその時は思っていた。




 白久駅前から真っ直ぐに伸びる道。
それが札所三十番へと続く巡礼道だった。

僕達は昨日、確かに此処を通り過ぎた。
でも、その辻に置いてあった入口の案内板を見損なっていたのだった。


「どうして昨日気付かなかったのかな?」

優香の発言にドキンとした。


僕は結夏のことを考えていたのだ。




 結夏とバイクで回った思い出の地。
丁度お花見の時期だったので桜の名所をアチコチ回ったんだ。
その一つが昨日鍾乳洞の中で話した吉見の百穴だった。


結夏の思い出の地だと言うので、内緒で連れて行ったんだ。


着いた時に結夏は泣いていた。
その涙を見ながら、結夏を幸せにすることを誓ったんだ。

だから結夏が気にしていた窓にカーテンを付けようと思ったんだ。


『お天道様が見てる』

結夏は何時も言っていた。
僕は昼間も結夏と愛し合いたくて……
そんな打算もあって、あのカーテン売り場に行ったのだ。




 昨日休憩場で食事をしながら、どう言う訳か浮き足立っていた。


それが何なのかを、青雲寺の前を過ぎた時に確認した。


『何時か訪ねてみたいね』と言った結夏との会話を思い出したからだった。
と――。


だから僕は、心これに在らず状態だったのだ。


樹齢ウン百年と言われる清雲寺の枝下桜。
遠くから確認しただけでもそのスケールは物凄かった。


あの吉見の岩室観音の百観音の砂の入った踏み台の上で、結夏との未来を願った。


あの時すぐ隣にある桜を眺めながら、今度は清雲寺へ行こうと語り合ったことを思い出したんだ。
だから僕は落ち着かなかったのだ。




 『ちょっと寄ってみない?』
落ち着かない僕を察してか、優香は参道へ足を向けていた。


「昨日の清雲寺の枝下桜は何が何だか解らなかったけど、ドデかかったね」


「そうだよね。ねえ隼、桜が咲く頃又来てみない。さっきみたあのサイクルトレインを利用して……」


「あっ、きっと無理だよ。混雑が予想される時だと思うからね」


「えっそんな……」

優香が悄気ながら言った。



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