大好きな君へ。
 何時だったか。
原付に乗っていた時も同じようなことがあり、プラグを交換した。
それがあの『一年経ったから有料です』と言われたバイク店だ。
プラグ交換は比較的安いんだ。
でも僕は納得出来ずにごねてしまった。
何度か足を運んだのだが、何時も休みだったからだった。

だから僕は騙し騙し乗っていたのだった。


エンストの危険がある大学前の坂は、無料のスクールバスで対処した。
発車する駅近くに、今は無くなったけどこれ又好都合に無料の駐輪場があったんだ。
だから其処で乗り継いだ訳だ。
今は駅前に有料駐輪場が出来て封鎖されてしまったけど、本当に重宝していたんだ。


その有料駐輪場は、僕の住んでいるマンションの隣にあるスーパーと同じ前輪を固定するスタイルだそうだ。
あれはやりづらいからやはりキライなんだな。




 何度も通って、やっと修理してもらえてホッとしたらから尚更頭に来たのかも知れない。
だって一年を数日オーバーしただけだよ。
店の方が慰安旅行なんかに行かなければそんなことにならなかったはずだからだ。


だから結夏に紹介してもらった自転車販売店が悪い訳でもない。
僕が、その販売店に行きづらくなったからなのだ。
結局僕は自分の首を締めただけだったのかも知れない。




 そんな経験があったから、今回もプラグではないのかと思って交換を依頼したのだ。
でも、今のバイクを買わされた店ではバッテリーとオイル交換しかしてくれなかったのだ。




 坂道の続いた先に駐車場があり其処から上る階段を見ながら参道を登る。


築山を配した庭園は風光明媚な秩父札所の中にあっても随一と言われているそうだ。


目指す観音堂は急勾配の階段の先にあった。




 「おん、はんどめい、しんだまに、じんばら、うん」

札所三十番は如意輪観音のご真言だった。


所作を済ませて、観音堂の周りを見てみた。


正面左にガラスケースがあり楊貴妃の鏡や龍の骨などがあるそうだけど、何気に見ていた。


「本物だったら凄いね」

優香が笑った。


「寺の宝物は門外不出でしまっておく物だとばかり思っていたの。まさかこんな場所に無造作に置かれているとは夢にも思わなかったの」

優香の言う通りだった。


「本尊の如意輪観音像は別名楊貴妃観音とも言われているそうだよ。開山した道隠禅師が唐より持ち帰った、楊貴妃の冥福を弔い開眼させた物だと伝わっているそうだ」

僕は知ったか振りをしていた。



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