大好きな君へ。
 トンネルの先は更に解り難かった。
丁字路に印しさえも存在していなかったのだ。


「バカにしているね。まるで遭難してくれって言っているみたい」

優香の言葉に頷きながらも左に折れる。

でも、幾ら歩いても案内板はなかったのだ。


もう一度案内書を見る。
でもパニクり始めた頭では、その道が何処なのか判断出来なくなっていた。




 僕達は遂に歩みを止めた。
さっきの元気はもう出ては来なかった。


トンネルが示すように、山深い場所なのだと思う。

もし本当に遭難でもしたら……
そう考えたら恐くて仕方なくなったのだ。


『これから大変な行程になると思うけど、最後まで頑張ろうね』
白久駅前での優香の言葉を思い出した。


(昨日のように標識を見逃すこともあるかも知れない。だから無理はさせたくない)

僕はそう考えた。


「やっぱり引き返そう」
その途端僕は言った。


それでも、そっと優香を見る。
優香は頷いてくれていた。




 僕達は元来た道を引き返した。
実は、それこそが一番勇気がいる行動だったのだ。
ふりだしに戻ることをしたくなくて誰もが無理をしてしまうからだ。



さっき左に折れた丁字路を右に曲がる。
本当にさっきの道かどうかも判らない。
だけど覚悟を決めて、優香と共に歩みを進めた。
内心ドキドキだった。
道を間違えたら全く別な場所へ飛ばされるだろう。
そう思いつつ、それでも進むしか道はなかったのだった。




 それでもどうにかトンネルまでたどり着いた時はホッとした。

優香は今にも泣くき出しそうな顔をしていた。




 僕達は何とか三峰口駅前までたどり着き、御花畑駅に向かった。

コインロッカーに預けた荷物を持ち、帰路に着いたのだった。


結局、結願寺まではたどり着けなかった。
隼人之霊と書かれた札をお焚き上げにしてもらうにはもう少しかかることになったのだった。
秩父札所巡礼の道はまだまだ続くのだった。


後で案内書を良く見てみると、うっすら書いてある山があった。
どうやら其処がトンネルのようだ。


本当はあそこから行けたらしい。
と言うか、僕達は正規ルートを通っていたようだ。


でも何故、標識がなかったのか?
それが不思議だった。


でもその巡礼の旅が僕達の絆を更に深めてくれたには違いなかったのだ。


「明日は午後から雨らしいけど、シルバーウイークが全部晴れて良かったわね」

優香がポツンと言った。


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