大好きな君へ。
 翌日。
全行程を把握しようと一人でバイクで秩父へ向かった。


又迷子になれば、優香が悲しむと思ったのだ。


優香の心を早く解放させてやりたかったからだ。
でも本当は僕がそれを望んでいるからだった。


水子供養とお遍路が済んだら、隼人の霊と墨書したお札を結夏の菩提寺でお焚き上げてもらってからだけど……

僕の誕生日は十月だから、その時に籍を入れようと考えていたからだった。


だから、どうしても九月中にはお遍路を済ませておきたきったのだ。




 国道140号にある和銅大橋信号を右に曲がろうと、バンドルをきった。


その信号手前には、優香と降りた和銅黒谷駅前にに出る信号があった。


和銅大橋を渡り、その先を真っ直ぐに行く。
標識がその先に国道299があることを教えてくれたからだった。


ポールの立つ場所を潜り抜けて、右に曲がると椋神社に出会した。


(えっ、椋神社!?)

僕は其処が、秩父事件の舞台となった場所だと勘違いした。


(もしかしたら、此処は吉田!?)

物凄く不安になった僕は傍にいた人に近付いた。


「すいません。あれ秩父事件の椋神社ですか?」


「あっ、違うよ。あれはお田植え祭りの椋神社だよ。秩父事件の椋神社は吉田だから、あの山の向こうだよ」


「ありがとうございました」

そう言った時、栗尾行きのバスが僕の横を通り過ぎた。


「あっ、そうか。確かあの先だ」


「は?」


「いや、今のバスです。栗尾って確か札所三十番の手前でしたよね?」


「そうだけど」


「実は僕、札所三十番に行こうとしていました。色々とありがとうございました」

僕はお礼を言ってからバスの後を追い掛けようとバイクのキーを捻った。


……カタカタカタ。
でもその音はエンジン音に結び付かなかった。


(結局バッテリーじゃなかったってことか?)

僕は途方に暮れながら、取り敢えずガソリンスタンドへ向かおうとバイクを押し出した。


「すいません。この近くにガソリンスタンドはありますか?」

さっき椋神社のことを聞いた人の所までバイクを転がして尋ねてみた。

でもその人は首を振った。


「一番近いのは多分秩父かな?」

その言葉にがっかりしながらもお礼を言ってから僕はバイクを押して元来た道を戻っていた。


(何やっているんだろう僕?)
優香に黙って出てきた罰かも知れないと思った。
でもそんなことより、どうやったら家に戻れるか心配だった。
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