大好きな君へ。
 サイドスタンドを出すとエンジンが止まる仕組みのバイクに有りがちなトラブルに、セルが回らなくなることが多々あると秩父のバイク屋さんが言っていた。
それと、スイッチの接触不良。
この二つをバイクショップで聞いてみた。


店長はすぐに、サイドスタンドに何かを振り掛けてくれた。


「サイドスタンドはこれで大丈夫です。セルスイッチの接触不良ですが、このボッチをぐるぐる回してみてください」

その感覚確かめるように店長の真似をしてみた。


「確かに接触不良ですから、それでやってみてください」

何かイヤだなと思いながらも僕は頷いていた。




 新タイヤの調子を確かめるべく、その帰りに遠回りしてみた。

優香を迎えに行くまでにはまだ時間があったので、内緒の様子見だ。
勘のいい優香のことだから、すぐにバレると思うけど……


優香の言ってた四国の砂まで入った踏み台を事前に見てみたくなったのだ。


『あれっ、これ踏み砂だわ』

札所三十四番での優香の発言にドキンとした。
結夏と行った百穴近くの岩室観音を思い出したからだ。


『ううん違うよ。隼の大学の上にある……』

でも次に続いた優香の言葉に更に驚いた。
大学のすぐ近くにお寺にそんな凄い物があると知らなかったからだ。


そう、だから僕は今此処に居るのだ。




 大学のバイク置き場入口を通り抜けて、次の信号を真っ直ぐに走らせる。
すると、札所の駐車場が現れた。
その反対は山全体が公園になっている紅葉の人気スポットだった。


(何時か優香と来たいな)
何気にそう思った。


僕は其処に、敢えてサイドスタンドでバイクを止めてから下のトンネルに入った。


その参道は勾配のある坂だ。
きっとコンクリートの枠組みの上がさっきバイクを止めた駐車場なのだろう。
出口に陽が当たり光っていた。


あまり時間がないことは解っていた。だから僕はその道を急いだ。




 それは地蔵菩薩立像の前に確かに存在していた。

右より、坂東、秩父、西国、四国とあり、御踏砂と刻印されていた。


初め逆さに読んでいた。
でも砂踏御では意味不明だったので反対から見直した訳だ。


其処の地蔵菩薩は札所三十二番とは違っていた。

当たり前だと言えばそれまでだが……


僕は何故かこの地蔵菩薩に、ニューヨークにいる戸籍上の母を重ねていた。
今僕が誰の子供になっているのかは知らないけど……



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