大好きな君へ。
 「丁度いいわ。隼君、中野先生を送って行ってくれない?」


「はっ?」

僕は突拍子もない声を出していた。


「ほら、方向同じでしょう? 自転車の方は修理しておくからね」


(方向同じでしょう、って……原島先生何か勘違いしていないか? でもこれで彼女が何処に住んでいるのかが解る)

僕は一瞬喜んだ。


(こう言うのがストーカーの始まりだったりして……)

結夏のことを思うと、本当は素直に喜べないと気付く。


それでも僕は嬉かったんだ。


何だか解らないけど、願ってもないチャンス到来だった。
内心はホクホクだったんだ。


僕は早速バックのキャリーケースからヘルメットとゴーグルを取り出した。


(結夏……)

そう……
そのヘルメットは僕とお揃いの……結夏専用だったのだ。


「ありゃバイクだったの。私は歩きで……ま、いいか。それじゃ頼んだわよ」

原島先生はそう言って園長室に戻って行った。




 黒いキャップ式ヘルメットとゴーグルを身に付け、僕は彼女の指示通りに走りだした。


(あれっ!? この道は確か……? そうだ。あの道だ。僕が保育園に行くために何時も通っていた道だ)


暫く行くと、線路の上を通る太鼓橋に出会した。

其処は懐かしい場所だった。

叔父と住んでいたオンボロアパートが、その先に見えていた。

僕は思わずバイクを止め、て指を差した。


「僕、あのアパートに居たんだ」


「えっ、もしかしたら隼君って、相澤隼君?」

彼女言葉に頷いた。


「王子様……」

彼女は突然言った。


「あっ、ごめんなさい。ほらコマーシャルか何かで王子様の格好していなかったっけ?」


「うんしてた」


「私、その頃あのアパートの隣にいた……」


『ゆうかせんせーい!』
突然、さっきの場面を思い出した。


(あれは結夏じゃなくて、優香!?)

僕はその時思い出していた。

同じ保育園にもう一人のゆうかが居たことを……


そうかだからあの時、見覚えがあるようでないようでハッキリしないって思ったのか?。

あの時何故ときめいたのかも解らなかった。

でも僕のハートは完全に持っていかれていたんだ。


(あっ、だから原島先生はああ言ったのか?)

さっきの言葉を、僕は頭の中で繰り返えしていた。


「もしかしたら、中野優香……さん?」

僕の問い掛けに彼女は頷いた。


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