大好きな君へ。
 「結夏も隼人だって」


「思っていることは同じね」


「そうだね。やっぱり隼人に決めた。隼人、早く此処においで」

躊躇いながらお腹に手を伸ばしたら、その手を優香がきつく握った。


「十七番で戴いた遍路人形持ってる? 私のはお腹に、隼のは優香さんの手紙に添えて……」


「えっ、何をするの?」


「それでもう一度お願いしてみるの。隼人君を育てさせてくださいって」


「観音様と通じているあの緑の紐と言い、百観音の模した鐘と言い……」


「アニメに取り上げられるにはそれなりの理由があるってことかも知れないね」

僕は優香に言われた通りにその手紙に遍路人形を添えた。


「結夏さん、お願いがあります。どうか隼人君を私達に託してください。私の子宮で隼人君を誕生させてください。出来れば結夏さんも隼人君と一緒に……」

優香は隼人だけではなく結夏も呼んでいた。
僕は優香の優しさと包容力の大きさに感銘を受けていた。


それが優香の企みだった。
あの日の遠い目は、これを目論んでいたのだ。
初夜のおあずけまも、札所へ行ったことも……




 「その手紙は遺品を整理していた時に見つけたんだって。傍には妊娠検査薬もあったそうよ。結夏さん、誰にも打ち明けられずに苦しんでいたのね」


「実は僕も初めてだったんだ。でも解らない」


「何が?」


「手紙だよ。何で結夏はこれを残したのかな?」


「もしかしたら、ストーカーに脅えて……。そうよきっと……」


「ん!?」


「『この子は隼の子供です』って言いたかったのかな? もし何かあった場合、ストーカーの子供だとされてしまうかも知れない。なんて考えたのかな?」


「僕の前ではそんな様子これっぽっちもなかった。だから何も知らず……ごめん優香、まだ結夏を忘れられないようだ。優香が大好きなのに……」

僕は言葉に詰まり、優香をそっと見つめた。


「隼、大好き!!」

その時、優香がいきなり抱き付いた。


「これからも結夏さんと過ごした日々を思い出してあげればいいわ。私は大丈夫。だって何時でも隼と愛し合えるから……何時でも隼と楽しい思い出を残せるから……」

優香はそう言いながら、僕の胸で甘えた。


(結夏、ごめんな。僕は優香と共に生きて行くよ。君から隼人を引き離せないことは解っている。だけど……僕達を信じて優香に託してほしいんだ)

遍路人形を握り締めながら、結夏の手紙にそっと手を置いた。




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