大好きな君へ。
 そんなに都合良く隼のバイクが通るはずもなく、私はトボトボと歩き始めた。

アチコチ目をやると、自転車通勤では見えなかった色々な物が飛び込んでくる。


あの日バイクから見た花も何時の間にか変わっていた。


(確かもうすぐ結夏さんの三回忌だったな)

ふと、そんなことを思い浮かべていた。


(この先に結夏さんが落とされた太鼓橋があるんだよね)

そう思うと気が重くなる。
何も知らなかった私は毎日平気で其処を通っていたのだった。




 半夏生の花が咲き始めていた。

半夏生とはカタシロバナとも言い、花と葉の一部が白く。

又夏至から数えて十一日目も、この花にちなんで半夏生と言うそうだ。


(これが咲くとすぐに真ん中詣りがあるんだよね。花言葉は確か、内に秘めた情熱。何だか結夏さんに似合い過ぎるな。確か結夏さんの告別式の日も咲いていたな)


真ん中詣りは詣りか詣でとも言い、一年の丁度真ん中の日に感謝のお礼参りをする日なんだそうだ。


神社ではチノ輪潜りも行っているようだ。


結夏さんが亡くなったのはそんな頃だったのだ。




 高校時代に友達と川越に行ったことがある。
その時始めて半夏生の花を見た。


場所は時の鐘を潜った先にある川越薬師の脇だった。


葉っぱの表は白いのに裏は緑色をしていた。


『半分化粧をしているみたいでしょ。だから半化粧共言うのよ』

私が見惚れていると見知らぬ人が説明してくれた。


あの時の感動は忘れられない。
お目当てだった川越薬師の目の絵馬より、此方の方を沢山撮影したいたくらいだった。




 私は結夏さんの告別式のことを思い出していた。


死化粧で整えられた結夏さんは綺麗だった。

組んだ指の下には結夏さんとお揃いの小さな衣装が置いてあった。


(きっとあれが、隼との間に出来た胎児だったのね。御両親は結夏さんと一緒に旅立たせてやりたかったのね。黄泉へと続く旅路へと)


御両親はきっとその胎児の父親が隼だと気付いていたのだろう。
それでも、それだから敢えて隼に連絡を取らなかったのではないのだろうか。


突然芸能界から姿を消した隼をマスコミが放っておく訳がないと思っていたのかも知れない。




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