大好きな君へ。
☆身を焦がしながらも
 「あぁー又だ!!」
私は自転車置き場で悲鳴を上げた。


何度目かの翔君の悪戯だった。


「翔君、アナタって子は……」
園長先生が呆れていた。


私が早番の時、皆の目を盗んで良く自転車をパンクさせる。

帰ってほしくなくないんだ。
それは解っているし、私も翔君と一緒に居たいと思っている。


だけど皆の手前、何時までも此処に居る訳にはいかなかった。


私はその思いを解ってほしくて翔君を抱き締めた。


決して翔君を嫌いな訳じゃない。
でも、何時まで此処にいたら示しが付かなくなる。


それに翔君に対しても悪いことなんだと思っていたからだった。


「中野先生甘いんだから」

園長先生が言ったら翔君が舌を出した。


「翔君、アナタって!!」

遂に堪忍袋の緒が切れたのか、園長先生が大きな声を張り上げた。

翔君はビックリして泣き出した。
そんな翔君の背中を優しく撫でながら、私は何故か懐かしい気持ちになっていた。




 「園長先生何か思い出しませんか?」


「えっ、一体何を?」


「隼……相澤隼さんのことです。翔君を見ていたら、何時も園長先生にべったりくっついていた隼さんのことを思い出しました」


「そうだったわね。彼も寂しかったからね」


「私ね、何時も相澤隼さんと一緒に帰っていたんです。でも、ブランコの一件があってから……」


「近所の人が二階から見ていたらしいわね。確か優香先生が鉄製の枠を潜ってブランコに近付いたのよね?」


「はい、そうです。悪いのは私なんです。でも母は隼さんを許してくれなくて……」


「そうだったわね。隼君はあの後ずっと独りぼっちで叔父さんが迎えに来るまで待ってってっていたわね」


「私ね。あの時の隼さんが今の翔君のようき思えてならないんです」


「だからって甘やかすのはね」


「解っています。でも何だか放っておけなくて」

私は抱き抱えていた翔君をそっと下ろした。


「園長先生すいません。翔君のことよろしくお願い致します。私は歩いて帰りますから」

前篭からバッグを取り出して帰路についた私は、フェンス越しに辺りを見回してた。


又隼に送ってもらいたかったのだ。

< 55 / 194 >

この作品をシェア

pagetop