大好きな君へ。
 「あっ、又翔君の悪戯なんです」


「えっ、もしかしたら又パンクさせられたの?」

私が頷くのを見て、隼は私の手を取った。


「時間ある? もしあるのだったら僕にくれない」

隼の言葉が何を意図しているのか判らない。それでも私は頷いた。




 隼は私が今さっき歩いて来た道を進んで行た。


「もしかしたら保育園?」

隼が頷いた。




 「翔は男の子だろう? だったら女の子を泣かせてはダメだよ」

保育園に着くなり隼は翔君に向かって声を掛けた。


「女の子はね、力が弱いから大切にしてあげなきゃいけないんだよ」

当人の翔君は何を言われているのか理解出来ていないようだった。


「原島先生すいません。僕にくれたあの言葉を使わせてください」


「あっ、あの言葉ね。でも辛くない?」


「大丈夫です」

隼はそう言った後で翔君を抱き抱えてブランコに座らせた。


「園長先生、一体隼に何を言ったのですか?」

私は隼の言葉が気になって園長先生に尋ねた。


「中野先生がブランコで怪我をした時に言ったの。『女の子は赤ちゃんを産むことの出来る大切な体なのよ』って」


「えっ!?」

私は言葉を失った。


「『だから大切にしてあげないといけないのよ』って言ったら、隼君は『僕がずっとブランコに乗っていたからかな?』って言ったの。『仲間に入れて貸してあげなかったからかな』って。必死で理解しようとしていたの。だから中野先生がお母さんに連れられて帰る時、私の後ろで我慢していたのよ」


私はあの時の隼の姿を思い出して泣いていた。


「隼辛いですね。でも私も辛いんです」


「中野先生、もしかしたら隼君が好きなの?」


「小さい時から大好きだったんです。だから遊んでほしくてブランコの後ろから近付いたんです」

今度は園長先生が私を抱き締めてくれた。


「隼きっと辛いよ。結夏さんのお腹の中にいた大切な隼との命……」

その命が失ったことを考えたら涙が止まらなくなってしまっていた。




 「中野先生。それは言ってはダメでしょう」


「やはり隼なんですね」

園長先生はゆっくり頷いた。


「私の勘だから、ヘタなことは言えないの。でもきっと間違いないと思ったの」


「私それでも隼が好きです。小さい時から、ううんそれ以上に」

その時、私を抱き締めてくれていた園長先生の腕に力が入った。



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