大好きな君へ。
 『良く二人でバイクで出掛けていたよ。あの日だって……』

ふと、ストーカーの言葉を思い出した。


あの日私は隼のバイクに初めて乗せてもらった。

私はあの時、バックのキャリーケースに何故ヘルメットがあったのかなんて考えもしなかった。


きっとあれが結夏さんのヘルメットに違いない。


今私はきっと結夏さんに嫉妬している。


あの日、現場検証でもしてもらえたなら……

もしかしたら結夏さんをあの隙間から落とした人物が特定されるかも知れない。

そう思っていた。


それは一部の期待。
何としてでも隼を……
結夏さんの御家族を地獄の猛火から救い出してやりたかったのだ。

でもそれすら嘘に感じる。

私はただ、隼に結夏さんを思い出してもらいたくなかっただけのだ。

私だけを愛してほしいばっかりに……


その結果が……
まさか孔明さんのお兄さんが犯人だと言い当てるなんて……


(ねえ、何て言えばいいの? 何て慰めればいいの?)

それは深い……
今まで以上の深いキズになっていく……




 (結夏さん。私は貴女の恋人だった隼を愛してる。出来れば隼に貴女のように愛されたい)

私は何考えているんだろう。


強い強い執念のような愛が、私の心の中に渦巻いていた。




 「あっ、待って」

突然隼の声が聞こえた。
どうやら、立ち去ろうとした私に気付いたようだ。

私は、後ろ髪を引かれるように其処から動けなくなった。


隼は階段を上がり、すぐに私の下にやって来た。


「さっき飛び降りた時には気付かなかったけど、結夏はどうやって此処から這い上がったのだろう?」

言われて、それは無理だと気付いた。


石で固めた隼の胸ほどあるその隙間を、か弱い結夏さんが這い上がるのことは出来るはずがないと思った。


私は隼が今までいた階段目を向けた。

其処へと繋がる道は鍵が掛かっていた。

どうやら線路の補修などで降りるために作られたようだ。


「駅方面か反対に歩いて行けば踏み切りがあるから、多分其処かな?」


「きっとそっちだな。南側だから結夏の家にも近いし……」


私は手を差し伸べて何とか隼を救い上げた。




 「ごめんね優香」
隼は泣き声だった。
私は思わず隼を抱き締めた。

さっき翔君にそうしたように……


「ところで何で歩きなんだ」

気まずくなったのか、隼は私の腕を外しながら言った。




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